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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

 主として日本民族により、日本列島において使用され、発達してきた言語の名。日本人は国語とも称する。その系統・起源としては、北方の言語である「ウラル・アルタイ語族」とする説、南方の言語である「マライ・ポリネシア語族」とする説、その両者が重なり合ったとする説、英語、ペルシア語、インドの言語などを起源とする説など多数あるが、いずれも学界全体の合意を得たものはない。周辺の言語の古代語の資料が乏しいから、この面の研究の進展は非常に困難であろう。[築島 裕]

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本州・四国・九州・北海道・沖縄およびその属島、すなわち日本国の領土全般に広く行われており、しかも他の言語と競合併存することがない。ただし、明治末期から第二次世界大戦の終わりまでは、台湾・樺太(からふと)(サハリン)・朝鮮半島にも、住民全体に日本語教育が行われた時期があった。海外に移住した日本人の間でも行われるが、三世以下に伝えられることは少ないとみられる。また、外国人に対する日本語の教育・普及は貧弱である。1998年(平成10)現在、日本語を話す人口は約1億2500万人で、英語、中国語、ロシア語、スペイン語と並んで世界の大言語の一つに数えられるが、国際性はかならずしも豊かでなく、今後の対策が要請される。[築島 裕]

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日本語には、権威ある公的機関としてその規準を示すものはないが、現代の口語については、国語審議会(文化庁所管)の審議・答申があり、それに基づいて公布される内閣訓令・告示があって、公用文の表記はだいたい統一された内容を備えている。それは、人名の命名についての法律にも関係している。一方、小・中・高校の教科書は文部省(現文部科学省)の検定を経ているが、それも同じ規制によっている。新聞・雑誌などもこれを規準とするものが多く、現代の日本語の表記形態は、だいたい統一の状態を保っているといえる。また、話しことば(口頭言語)は、ラジオ・テレビの普及によって、東京の中産階級のことばを基にした共通語(標準語)が全国に広まっている。全国各地に方言が分立しているが、本土方言と琉球(りゅうきゅう)方言とに二大別され、さらに本土方言は東日本方言、西日本方言、九州方言の三つに分かれる。それぞれの間に音韻(アクセントも含む)対応の法則があり、文法についても法則的対応が顕著である。語彙(ごい)は、地域による個別的差異が多くみられるが、それらのなかで、古代、中世、近世において中央で行われていたのに、現在では用いられなくなってしまったものが、地方に残存している例が少なくない。この種の現象は、語彙ばかりでなく、音韻や文法についてもしばしばみられる。



 日本語の方言の歴史は、資料が乏しくて、あまりはっきりしたことはわかっていない。ただ、8世紀には、東国(だいたい、現在の静岡県以東辺)には、当時の都のあった大和(やまと)(奈良県)地方とは異なった東国の方言があって、音韻、文法、語彙などのうえで、大きな相違があったらしい。その後、16世紀の末ごろには、東国方言や九州方言が中央(京都)のことばと対立していたことが知られるが、その間の数百年間のことは、ほとんど不明である。江戸時代には封建制度が発達して、各地に領主が封ぜられ、しかも中央(江戸)との間に参勤交代その他の交流があったために、諸国の方言が比較観察される機会が多くなった。当時すでに現代のような諸方言が存在したことが推定される。方言は話者の郷土意識や地域社会の構造と関連が深く、方言コンプレックスの問題などもあるが、今後、共通語の普及や、他方では地域社会の独自性の振興など、種々の要素が絡んで、対処すべき問題が少なくないことと思われる。[築島 裕]

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